凍結乾燥法 ~熱を加えない乾燥~

大石修治(校長)

 

1 はじめに

 乾燥とは,物質に含まれている水分がなくなることである。乾燥した油揚げ,豆腐,ネギや海草などに味噌を加えてお椀に入れ,お湯を注いで完成・・・味噌汁を少ない手間でおいしく食べることができる。その具は凍結乾燥(フリーズドライ)されている。変質しやすい食品などを加熱しないで水分を除去して乾燥させるために,軽量化が実現できるだけでなく,色,味,香りなどの変化を最小限に抑えることができる。長期保存が可能になり,水を加えると元に近い状態に戻すことができる。凍結乾燥法は,食品のほかにも,医薬品やセラミックスなどの分野でも用いられている。近年では,水の被害を受けた史料や書籍などの修復にも凍結乾燥法が用いられているようである1)
 日常の生活で経験するように,常温常圧では液体である水が蒸発(気化)して乾燥する。凍結乾燥法では,低い圧力の下に固体である氷が直接気体になる(昇華)。液体の状態から出発し,固体からの直接の乾燥が可能である。
 本稿では,まず,凍結乾燥法と密接に関連する水の状態図を説明する。次いで,水の状態図を巧みに利用する凍結乾燥法を述べる。

 

2 水の状態図

 状態図(相図とも言う)は,温度,圧力および化学組成をパラメータとして,安定な相の存在領域を示す図である。ある物質が周囲の環境と平衡状態にあるとき,どの相が存在するかを示している。
 水(H2O)の状態図を図1に示す。

図1 水の模式的状態図

水は1成分系であるので,状態図の縦軸は圧力,横軸は温度で表示する。水は,温度-圧力に依存して,固相(氷),液相(水)と気相(水蒸気)の3相に分けられる。状態図を氷,水と水蒸気の三つの領域に分けている相境界曲線は,曲線ATで示す昇華圧曲線(固相の蒸気圧曲線),曲線TBCで示す蒸気圧曲線(液相の蒸気圧曲線)と曲線TDEで示す融解曲線(または,凝固曲線)である。例えば,曲線AT上では氷と水蒸気が共存する。点TとCは定点であり,それぞれ三重点(0.0075℃,4.58 mmHg)と臨界点(374℃,218気圧)である。点Tにおいては,氷,水および水蒸気の3相が共存する。
 図1から明らかなように,氷の融点は圧力に依存する。高圧力になるほど,融点は低い。1気圧のときには,点Dで示す0℃で氷が融け始め,点Bで示す100℃で水が沸騰し始める。

 

3 凍結乾燥法

 水の相変化を実に巧みに利用した凍結乾燥法の操作プロセスを図2に示す。凍結乾燥法は,次の手順で行われる。状態(1)の水の温度を下げて,氷の状態(2) とする。次に温度を一定にしたままで減圧して(3)の状態にする。最後に減圧のまま(3)から(4)へと徐々に昇温すると,氷が昇華する。氷から水蒸気が抜け,乾燥する。低温での乾燥が可能なために,熱に不安定な物質や水分の多い状態では不安定な物質の乾燥に適している。インスタント食品の普及で,魚肉類から野菜などの食品の乾燥に広く用いられている。製品は芳香や風味に優れ,復水性にも富む。
 凍結乾燥法を無機材料化学の分野で使うこともできる2)。ある物質を溶解した水溶液の状態図(図2,破線で示す)の蒸気圧曲線と融解曲線は,凝固点降下と沸点上昇のために,水の状態図のそれら(図2,実線)のすぐ下側に位置する。上記の凍結乾燥の操作プロセスを実施すると,氷が昇華し,ある物質の微粒粉末を調製できる。

図2 凍結乾燥法の操作プロセス

4 おわりに

 凍結乾燥法は,低い圧力の下に固体である氷の昇華によって乾燥させる技術である。水の相変化を巧みに利用した技術である。低温で加熱なしでの乾燥が大きな特長である。食品や薬品などの多くの分野で使われている。

 

参考文献

  1. フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』:フリーズドライ
  2. 平野眞一,中 重治:セラミックスの化学―現象から原理へ―;セラミックス編集委員会講座小委員会編,技報堂 (1982) pp.38-68.
(2017年9月1日)
このエントリーをはてなブックマークに追加
index クリスタル
クリスタル
凍結乾燥法 ~熱を加えない乾燥~
水の硬度 ~硬度って何~
ダイヤモンドをつくる ~約150年を経て実現~
フラックス法 ~簡便な設備できれいな結晶を~
塩化ナトリウム
(食塩,塩) ~南信で塩が~