水の硬度 ~硬度って何~

大石修治(校長),柳沢裕二(機械・生産技術科講師)

 

1 はじめに

 モース(Mohs)硬度10はダイヤモンド(C),9はコランダム(Al2O3),8はトパズ(Al2SiO4F2)……。良く知られているように,モース硬度は10種類の標準鉱物に柔らかい方から番号をつけている。鉱物の硬度は,標準鉱物のどれによって引っかき傷をつけることができるかで決まる。機械工学の分野では,他の物質を接触させて変形を加えたときにその物質が示す抵抗を数値で表し,硬さとしている。

 ペットボトル入りの天然水(ナチュラルミネラルウォーター)を購入した。ラベルの栄養表示を見ると,表1のような記載があった。100 mL(Lはリットル。l,lやℓと書くこともある。)当たりの含有量の最下段に硬度21 mg/Lと表示されている。どうも,水の硬度は鉱物や機械工学の分野で使う硬度とは意味が全く異なるようである。


 水に硬さや軟らかさがあるのであろうか。水の硬度とはいったい何であろうか。水の硬度は,どのようにして求めるのか。水の硬度は日常生活とどのような関係があるのか。本稿では,それらを述べる。

2 水の硬度

 硬度は,水質の重要な指標の一つである。水中のカルシウムイオン(Ca2+)とマグネシウムイオン(Mg2+)の量を対応する炭酸カルシウム(CaCO3)の量に換算して水1L中のmg数で表す1,2,3)。このmg数が比較的大きい水を硬水,小さいと軟水という。水中のカルシウムやマグネシウムは,イオンとして存在し,主に岩石や土壌からの溶出による。

 硬水と軟水の区別は,世界保健機関(WHO)によると,次のようである3)

0 mg/L≦ 軟水 <60 mg/L
60 mg/L≦ 中程度の軟水 <120 mg/L
120 mg/L≦ 硬水 <180 mg/L
180 mg/L≦ 非常な硬水

また,硬水と軟水のおよその目安として次の記載もある5)

40 mg/L以下 きわめて軟水
40~80 mg/L  軟水
80~120 mg/L やや軟水
120~180 mg/L やや硬水
180~300 mg/L 硬水
300 mg/L以上 きわめて硬水

 これらの例からも明らかなように,硬水と軟水の区別の仕方や数値はおよその目安のようであり,明確には確立していないようである。

3 水の硬度の求め方

 水に含まれるカルシウムイオンとマグネシウムイオンを測定するには,諸々の機器分析法やキレート滴定法がある1,2)。EDTA(エチレンジアミン四酢酸,ethylenediamine tetraacetic acid)を用いるキレート滴定での定量が最も簡便である1,2)。その際に用いる器具は,ビュレット,ホールピペット,駒込みピペット,三角フラスコやミニスパーテルなどである。試薬は,EDTA標準溶液,NH3-NH4Cl緩衝液,EBT指示薬,水酸化カリウム(KOH)とNN指示薬である。実験操作は,参考文献の1)や2)に詳しい説明がある。

 EDTA滴定による実験の結果,天然水100 mL中にカルシウムが0.50 mg,マグネシウムが0.20 mg含まれていたとする。水1 L中には,カルシウムが5.0 mg,マグネシウムが2.0 mgが存在することになる。なお,カルシウムとマグネシウムの原子量はそれぞれ40.078と24.3050であり,炭酸カルシウムの式量は100.1である4)

 まず,水1 L中のカルシウムの量を炭酸カルシウムの量に換算する。

5.0×100.1/40.078=12.5 mg

続いて,水1 L中のマグネシウムの量を炭酸カルシウムの量に換算する。

2.0×100.1/24.3050=8.2 mg

 したがって,この天然水の硬度は,12.5 mg+8.2 mgであり,21 mg/Lとなる。この天然水は軟水であることがわかる。

 ラベルの栄養表示を見て,簡便に硬度を計算するには次の式を用いると便利である。

硬度(mg/L)=カルシウム量(mg/L)×2.5+マグネシウム量(mg/L)×4.1

  1. 水1 L中のカルシウムとマグネシウムを求める。通常は,水100 mL中での濃度が表示されているので含有量を10倍する。
  2.  カルシウムの量を2.5(≒100.1÷40.078)倍する。12.5 mgとなる。
  3.  マグネシウムの量を4.1(≒100.1÷24.3050)倍する。8.2 mgとなる。
  4. 2と3で求めた値を足し合わせる。

前述の水の硬度は,21 mg/Lとなる(5×2.5+2×4.1=20.7)。

4 水の硬度と日常生活

 日本の水は,沖縄県などの一部地域を除き,軟水が多い。ヨーロッパやアメリカの水はほとんどが硬水である3)。水道水の水質基準は,300 mg/L以下である2)。おいしいと感じる水の硬度は,他の条件にも依存するけれども,10~100 mg/Lである5)

 水質と食生活には密接な関係がある。軟水系の日本では,日本料理での素材の持っている味を出している。硬水系のヨーロッパや中国料理では,硬度成分を除いたり,ソース味を用いたりしている。軟水は緑茶や紅茶に適している5)。日本酒の場合,軟水の方では発酵が穏やかに進み,甘口の酒造りに適している。硬水は辛口の酒造りに適している6)

 硬水は石鹸が泡立たない。軟水ではよく泡立ち,洗濯に適している6)

5 おわりに

 水の硬度は,水中のカルシウムイオンとマグネシウムイオンの量を対応する炭酸カルシウムの量に換算して水1L中のmg数で表し,私達の日常生活に密接に関係している。

参考文献

  1. 伊藤一明,小嶋健博,善木道雄,手嶋紀雄,西田正志,吉田 烈:環境・分析化学実験;酒井忠雄,相原將人編著,三共出版,65-68 (2002) .
  2. 合原 眞,今任稔彦,岩永達人,氏本菊次郎,吉塚和治,脇田久伸:環境分析化学;三共出版,141-144 (2004).
  3. 百瀬義広:水の総合辞典;水の総合辞典編集委員会編,丸善,148-149 (2009).
  4. 日本化学会編:化学便覧基礎編改訂5版;丸善出版,Ⅰ-30, Ⅰ-36, Ⅰ-176 (2004) .
  5. 合原 眞,佐藤一紀,野中靖臣,村石治人:人と環境―循環型社会をめざして―;三共出版,85-91 (2002)..
  6. 生活と水の研究会編著:おもしろサイエンスおいしい水の科学;佐藤 正 監修,日刊工業新聞社,19-21 (2007).

 

(2017年7月28日)

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