ダイヤモンドをつくる ~約150年を経て実現~

大石修治(校長)

 

1 はじめに

 ダイヤモンド(金剛石とも言う)は,炭素の結晶であり,立方晶系に属する。ダイヤモンドは,すでに紀元前7~8世紀に知られ,現代でも宝石の王者である。4月の誕生石としても知られている。ダイヤモンドは硬い物質であるとの認識が昔からあり,工具として使った。天然ダイヤモンドは,ロシア,ボツワナ共和国,コンゴ民主共和国,オーストラリアや南アフリカ共和国などで産する。日本ではダイヤモンドは産しないと長く言われてきたけれども,2007年に四国で1 μm(1/1000 mm)サイズの微結晶が見つかって話題になった。
ダイヤモンドは基本的には無色透明であり,その密度は3.51 g/cm3である。この値は,同素体であるグラファイト(黒鉛や石墨とも言う)の密度2.23 g/cm3よりもはるかに大きい。ダイヤモンドが炭素の高圧型であり,黒鉛が低圧型であることがわかる。現在,ダイヤモンドは宝石だけでなく,工業材料としての多くの用途がある。機械的性質としては硬度の大きさを誇り,研削材や研磨剤としての用途が多い。光学的性質としては屈折率(2.42)が大きく,輝いて見える。熱伝導性がきわめて高く,エレクトロニクスデバイスの熱を逃がすヒートシンク(放熱部品)としての用途が多い。本来は絶縁体であるけれども,不純物(例えば,ホウ素)をドーピングし,半導体としての用途がある。ダイヤモンドは多くの性質に優れ,近代の工業に重要な役割を果たしている。
 天然に産する炭素の結晶は,ダイヤモンドとグラファイトである。ダイヤモンドが炭素の結晶であることが1797年に明らかにされた。ダイヤモンドが炭素であることがわかれば,それをつくりたいと思うのは自然である。プロからアマチュアまで,多くの人達がダイヤモンドづくりに挑戦した。様々なドラマが展開された。18世紀から20世紀中ごろまでのすべての試みは成功とは言えなかった。まさにダイヤモンドは,「征服されざる石」であった。1955年になり,F. P. Bundyらは人類待望のダイヤモンドを作製した1)
 本稿では,ダイヤモンド結晶の人工育成で繰り広げられたドラマを,研究論文1)や著書2-9)を参考にしながら紹介する。実現しなかったけれども,後世に大きなヒントを与えた二つの実験があった。それらを参考に,高温高圧技術などを駆使し,ついに企業の研究者集団がダイヤモンドづくりに成功した。人工ダイヤモンドは,約150年に渡る苦労の歳月を経て成長した結晶であった。

 

2 先人の努力

 ダイヤモンドづくりの歴史をまとめて図1に示す。ダイヤモンドが炭素の結晶であることがS. Tennantによって科学的に証明されたのが1797年である。

    図1 ダイヤモンドをつくる歴史

彼は,ダイヤモンドを燃やして二酸化炭素を発生させた(C+O2→CO2↑)。ダイヤモンドが炭素でできていることが知られると,第一線の科学者から町の発明家に至るまでの数多くの人たちがダイヤモンド作製にチャレンジした。18世紀から一世紀半に渡る試みは,失敗であった。その中で,記録しておくべき2つの実験がある。

(a) ハネー【James Bannantyne ( or Ballantyne) Hannay:1855~1931】の実験

 天然ダイヤモンドは高温高圧下で成長する。問題は,炭素がダイヤモンドになる高温高圧をいかに実現するかであった。最初に成功を報じたのは,イギリスの若い科学者ハネーであった。
 J. B. Hannay, Proceedings of the Royal Society, 30, 450 (1880).
 鉄のチューブに骨油,パラフィン,アルコールとリチウム金属を入れて密封した。それを大型の反射炉内で加熱した。チューブ内で高圧が得られ,蒸気とリチウムが反応し,炭素がチューブの壁に析出するであろうと考えた。80回の実験を行い,3回だけ成功したという。ダイヤモンドの微結晶ができた。そのダイヤモンドは大英博物館に保管されている。
 現代になっての追試によると,ハネーの実験はダイヤモンド生成の条件に達していないことがわかった(チューブ内の圧力はせいぜい2000気圧)。ハネーのダイヤモンドは,X線回折実験によると本物のダイヤモンドであるけれども,天然ダイヤモンドと区別できない。後に作製のF. P. Bundyらによるダイヤモンドとは区別できる。謎を残したハネーの実験であった。

(b) モアッサン【Henri Moissan:1852~1907】の実験

 モアッサンはフランスの科学者である。電気炉とフッ素単離の研究で,1906年にノーベル化学賞を受賞している。
 1893年にダイヤモンド作製の実験を開始した。隕石中のダイヤモンドをヒントとし,高温高圧に加え,鉄をフラックス(触媒とする見方もある)にすることを考えた。木炭と鉄を充填した高温のるつぼを水中に急冷した。急冷による溶液の体積変化のために高圧力が発生することを期待した。0.5 mmのダイヤモンドが生成した。ダイヤモンドの生成を報告した。
  H. Moissan, Le Four Electrique,(1904).
高名なモアッサンによるダイヤモンド生成の報を知り,追試で成功したという研究者が多数出現した。ところが,モアッサンの死後,実験を行ったアシスタントが「先生を喜ばすために,天然品をるつぼに挿入した」ことを告白した。現代の評価によると,そのるつぼ内の圧力はせいぜい2000気圧であることが示された。恐らく,ダイヤモンドはできなかったのであろう。
 先生を喜ばそうとするアシスタントの気持ちはよく理解できる。追試で成功したと報告した多数の研究者は本当にダイヤモンドできたのであろうか。疑わしい。やるせなさが残るモアッサンの実験であった。
(a)と(b)の後に,人類の夢であるダイヤモンド作製を目指して,1941年に高圧物理学の開祖と言われるP. W. Bridgman(1946年,ノーベル物理学賞受賞)によって近代的な研究が開始された。戦争や資金難での中止などを経て,General Electric Company (GE)研究所などでのダイヤモンド作製計画が始まった(1951年)。
この時点では,まだダイヤモンドの作製にはまだ至っていない。しかし,ダイヤモンドの作製を目指したことによって,高圧技術は著しく発展した。

 

3 ついにダイヤモンドが

 1955年,「征服されざる石」と言われていたダイヤモンドの作製についに成功した。GE社の研究者4名が,ArtificialやSyntheticの語を用いずに,あえてMan-Madeを使い「MAN-MADE DIAMONDS」のタイトルでNature誌に発表した。
 F. P. Bundy, H. T. Hall, H. M. Strong, R. H. Wentorf,Jr:Man-Made Diamonds; Nature, 176, 51 (1955).
炭素と金属フラックス(鉄など)を高圧容器中に入れ,例えば約1600℃-約95000気圧に保持した。高温高圧下の金属に炭素が溶け込み,過飽和状態になった後に,過飽和分がダイヤモンドとして析出した。ダイヤモンドの大きさは約1 mmであった。誰もが認める,人類がはじめてつくったダイヤモンドであった。ダイヤモンドの結晶づくりが始まって以来,約150年後の目的達成であった。
 その後,人工ダイヤモンドを作製する研究が進展し,工業化された。特に,工業材料としてのダイヤモンドはMan-Madeが多く使われている。

 

4 おわりに

 人類の知恵と経験は,長い失敗の歴史を経た後で,ついに「征服されざる石」ダイヤモンドをつくることができた。人間がつくったダイヤモンドは,成分も結晶構造も,地球がつくった天然ダイヤモンドと同じである。人工ダイヤモンドは,機能を十分に活かし,広く社会に浸透している。長野県南信工科短期大学校でも,切削工具として人工ダイヤモンドの微結晶を使用している。
 なお現在では,上述の高温高圧を利用した方法で粒状のダイヤモンドができているほかに,化学気相法による技術が開発され10),薄膜状ダイヤモンドが作製されている。

 

参考文献

  1. F. D. Bundy, H. T. Hall, H. M. Strong, R. H. Wentorf,Jr., Nature, 176, 51 (1955).
  2. 砂川一郎:ダイヤモンドの話;岩波新書 (1964).
  3. D. Elwell: Man-Made Gemstones; Ellis Horwood Ltd., (1974).
  4. D. Elwell, H. J. Scheel: Crystal Growth from High-Temperature Solutions; Academic Press (1975).
  5. 大谷杉郎:驚異の炭素―釣竿・ゴルフクラブから宇宙船まで―;ダイヤモンド社 (1978).
  6. 砂川一郎:新しい鉱物学 結晶学から地球学へ;講談社 (1981).
  7. 砂川一郎:宝石は語る;岩波新書 (1983).
  8. 白水晴雄,青木義和:宝石のはなし;技報堂出版 (1989) .
  9. 志村史夫:ハイテク・ダイヤモンド 半導体ダイヤからフラーレンまで;講談社 (1995).
  10. 栄長泰明:ダイヤモンド電極;日本化学会編,共立出版(2015).

(2017年7月24日)

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